ゲームエフェクトデザイナーのブログ (新)

Houdini勉強開始。レポート記事とか色々。

「ハイエンドエフェクトCG制作の現状」レポート

「ハイエンドエフェクトCG制作の現状」名古屋講演
講師:菊地 蓮 (きくち れん) 氏 - Ren Kikuchi- | Senior Effects Technical Director

 こちらのセミナーに名古屋まで参加してきました!

 海外でのVFX事情について多岐に渡って語られた2時間半で非常に刺激的でした。
 せっかくなので、web公開で問題の無さそうな範囲でレポートしたいと思います。
 (うろ覚えなところがあり、間違った記述があったらすみません)

 司会はIwataさん
 https://twitter.com/iwatayasuhiro


VFXって何?

大きく分けて2つの工程

フロントエンドプロダクション
 「モデリング → リギング → アニメーション」
 レイアウトやルックディベロップメント(ルックデヴ)も同時に行われる
 後工程になるエフェクトセクションはこの時期にR&Dを行う
 菊地さんは今後やりたいこととしてルックデヴに興味があるとのこと

バックエンドプロダクション(ポストプロダクション)
 「エフェクト → ライティング → コンポジット」
 エフェクトができる人はライティングやコンポジットもできたりする
 エフェクトはモデルやアニメーションなど色んなことができるのが魅力

「リアルよりも説得力を大事にしている」という話がありました。
ゲームでも「ビリーバビリティ」と呼ばれて重要性が語られたりしていますね。


●ワークフローとパイプラインの違い

ワークフローは作業の流れ
 http://sophielinney.blogspot.jp/2013/02/the-vfx-pipeline.html

パイプラインはワークフローを円滑にする仕組み
 ファイルの受け渡しをスムーズにする
  フォーマット、コンバート
 ファイル管理のためのルールを作る
  命名規則、フォルダ構成
  命名規則に則った名前で出力するようにツール側で吸収してヒューマンエラーを無くす
 大規模制作では厳密に運用


●役職について

会社によって役職名と役割も違うが、大まかに下記のような感じで分かれている
--------------------------
ディレクター
VFXスーパーバイザー
 CGディレクターみたいな感じ
 ディレクターと密接に連携して、技術面での決定権がある
 (ディレクターは技術面を理由にした変更を求めたりはしない)
CGスーパーバイザー
 プロダクションの「主に技術面での」トップといった感じ

--------------------------

プロデューサー
 映画のプロデューサー、CGプロダクションのプロデューサーなど何人かいる
 パーティーに出てお金を引っ張ってくる人と、お金を管理する決定権がある人がいる
プロダクションマネージャー
 現場でお金を使う人
デパートメントマネージャー
 各セクション(エフェクトとかライティングとか)に1人、人事など
プロダクションアシスタント
 デパートメントマネージャーのアシスタント
 将来プロデューサーになったりするので仲良くしておこう

マネジメントをする人たちのカテゴリで、キャリアパスになっている
日本だとアーティストがディレクターになったりディレクターを経てプロデューサーになる例はあるが、海外ではアーティストからディレクターになるケースはあり得るもののプロデューサーになるキャリアパスは無い

--------------------------
R&Dエンジニア
 研究&開発する人

--------------------------
アーティストスーパーバイザー
シニアアーティスト
 他の人の面倒を見れる人
アーティスト
 一人前の人
ジュニアアーティスト
 アーティストはここから始まる、お給料はちょっと低い

スーパーバイザーは何かを作ったりはほとんどしない
他の人を正しい方向に導く人
作品を作っていきたい人はシニアアーティストとして50~60歳になっても続けていて、お金もしっかりもらえる

下のスタッフから慕われないスーパーバイザーはあっと言う間に切られる
シニアアーティストも同様で、コストがかかる分実績も求められる

参考:アメリカでCG屋をやってみる | ワークフローとパイプラインを考えてみる その1


●ハイエンドの定義

 明確な定義は分からないが「しっかり時間を使える」のがハイエンドかなと思う
 予算&スケジュールによって手法が限定されない


●エフェクトで使用する主なソフト

Houdini
Maya
3ds max
 FumeFX、Krakatoa、ThinkingParticle(TP)

Mayaは直感的に作業できる
良いツールではあるが、他ツールとの連携などワークフロー面で弱点がある
同じことを何度もやる場面も苦手

3ds maxはエフェクト屋にとってはプラグイン必須になり標準機能で賄いきれない
WindowsのみでLinuxに対応していない
FumeFXは悪くないが、「Fumeルック」と言われるようにFumeFXと分かる見た目になってしまう(FumeFXに見えないよううまくやっている作品もある)

3ds maxを使ってパイプラインなしで個々が自由に制作している現場もある
そこではアーティストはジェネラリスト寄りになっている
エンジニアやシステム構築する側からは不満が多い


●エフェクトの種類

下記4つになる(菊地さんは4つとも扱えて、上のものほど得意とのこと)

光学系&魔法
炎&煙

破壊

特殊なエフェクトでキャラクターが表現されているようなものは、会社によっては「キャラクターFXアーティスト」として職種が設けられている場合がある(これは面白いと思いました)

水しかできないが「水はとにかくすごい」というスペシャリストととして特化している人もいる


●ソルバについて

パーティクルシミュレーション
ボクセルベースシミュレーション(炎や煙など)
流体
 SPH、FlipPBD(ポジションベース)
 相当大規模な水もHoudiniのFlipでいける
 RealFlowはコップの水やペットボトルの水など小さい規模のものに向いている
 今はHoudiniで小さい規模も賄える

破壊、固いもの(Rigid Bodyシミュレーション)
 ODEBulletPhysX
 「このところはBulletしか見かけない」

昔はパーティクルベースでやっていた仕事が多かったが時代が変わるとやっていることも変わる
その時々に応じて最適な手法を選でることが大事


●プロシージャルとは?

Houdiniで例えると、1つ1つの機能がノードになっており、それが組まれて出来上がったフローの一部を差し替えてもフローが崩れない
参考:プロシージャル - sidefx.jp
キャラクターモデルを差し替えたり、カメラ、フレームレンジを変えるといったことが容易に行える

「一度Houdiniに慣れてしまうともうMayaに戻れない」


●制作フロー

ヒアリング → リファレンス → プランニング → 設計・開発 → ディベロップメント → 実制作 → チェック
リファレンスを集めるのはとても大事なこと
クライアントと話す時にはリファレンスを用意する
チェック段階で手戻りになるのはマズい(そうならないよう上記フローのリファレンスの段階で最終イメージのコンセンサスを取る)


●気を付けていること

・どのような素材が必要か事前に想定して整理する
・リファレンスを活用して完成形をしっかりイメージ
・出来るところからシンプルに進める
 必要なステップを頭に描く
 チャレンジも必要だが、新しい要素を沢山入れ過ぎない
 いきなりチャレンジし過ぎると時間をオーバーしてしまう

・与えられた時間とリソースに応じて手法を選択する
 マシン環境も含めて

・シミュレーション時間、レンダリング時間、メモリ使用量に気を付ける
 24時間を超えるシミュレーションは行わないようにしている
 最初は短いシミュレーションでイテレーションを重ねて良くしていく
 最後の最後だけフルHDや2Kでレンダリング


●就職について

Resume(履歴書)
 1ページでまとめるのが良いとされている
 (ここで菊地さんご自身の過去の履歴書の3つのバージョンを見せてもらえました)
 最初は関わった作品も少ないので使用ツールなどの項目で行が埋まっていたりする
 作品が増えてくると作品と使用ツールや行ったことについてが中心になる
 今は「どのようなことを行ったか」ということが中心になっている

DemoReel(作品)
 長くて3分、1分でも良い
 ベストなものしか入れないこと、今一つと思うものは絶対に入れないこと
 一番自信があるものを最初に持ってくる
 なぜなら相手が良いと思わなかった時点で観るのをやめてしまうから
 映像と一緒に使用ツール等の補足を字幕で入れると良い
 エフェクトの場合はブレイクダウンを入れること

       *       *       *

●岩井さんによる「CHUBU3D」のご紹介

 中部圏での3DCG関係の勉強会など開催されているとのことです。
 しばらくダンボールアート等でお忙しかったそうですが、隔月での勉強会を再開されるそうです。

 岩井さんのtwitterとブログ
 https://twitter.com/iwai


●「片桐裕司による彫刻セミナー」のご紹介
 http://chokokuseminar.com/
 ハリウッドの特殊メイクアップで長年活躍されている片桐裕司さんによる彫刻セミナー。
 3日間、粘土を使ってアドバイスを得ながら作品を作る内容になっているようです。
 大阪でも過去何度か開催されています。

       *       *       *

●菊地蓮さんへの質問コーナー

「日本のCGは海外に劣る?」

 色んな人から聞かれるが、劣ってはおらず方向性が違う
 日本は限られた予算・期間の中での制作に特化している
 軽自動車とスポーツカーで求められる技術が違うのと同じ

 制作を開始してしばらくはぐっとクオリティが上がり、その後は徐々にクオリティの上がり幅が少なくなっていくが、そこに時間をかけることができるのがハリウッド


「海外に行くべきか?」

 行きたいなら行くべき、年齢も関係ない
 日本と海外とのボーダーもなくなってきている
 アメリカだけでなく、カナダでワーキングホリデーという選択肢もあるし、アジアやヨーロッパなど選択肢も広がっている

 やりたい仕事がある所へ行くのが一番良い


「アーティストとしての成長とは?」

 引き出しを多くもつこと、正しい引き出しを選べるようになること

 本当に優秀な人は正しい引き出しを一発で開く

 目が肥えていっても、色眼鏡で見たり「期間が無い中では良くやった」といったように自分に嘘を付かないこと
 ハリウッド映画を見て微妙と感じても「この会社が作ったんだからすごいはず」みたいに思わず、客観的にフラットな目で作品を見るようにする


「すごい映画は?」

 「猿の惑星:創世記ジェネシス)」

 エフェクトで言えば「アベンジャーズ」
 とにかく物量がすごい、あの物量であの長さを描いている


「作品の完成タイミングは?」

 締め切り

 なぜなら完成はしないから、手を入れれば入れるほど良くなる


「 」(質問内容を失念‥)

 目について気になったものは集めておいてリファレンスにする(動画など)
 気になったことやちょっとしたこと、タスクなど個人ページにまとめて一元管理している
 今まではEvanote(でしたっけ‥記憶が曖昧です)を使っていたが今はGoogle Sitesを使っている


「Houdinを始める際に何から始めたら良いか?」

 sidefxのサイトに日本語字幕入りのチュートリアルが沢山あるのでそこから始めるのが良いのでは


「海外と日本との違いは?」

 日本は独特の熱量があり、チーム一丸となって取り組み易い
 海外は良くも悪くも個人主義
 会社ごとのカラーも強く出る
 ただ海外も小さなプロダクションは日本とそんなに変わらない

 日本と海外で唯一違うと感じたのは、スーパーバイザーの目が全然違う
 とある会社のスーパーバイザーは指示が具体的で迷いも無い
 長い年月の歴史を感じる
 日本が追いつけないことは無いと思うが、年月が必要だろう
 逆に日本はコスト面などから割り切る判断力がすごい


「求めるビジュアルの正解をどうやって見つけるか?」(みたいな質問内容だったような‥)

 ディレクターやVFXスーパーバイザーが求めるものが正解
 その中でやりたいものを表現する
 あくまでチーム制作


「菊地さんから見てセルアニメはどうか?」

 すごいと思う
 橋本敬史さんの爆発はすごい
 ハリウッドで4回くらい「AKIRAの爆発で」と言われたことがある
 「ディープ・インパクト」の爆発もきっとそうじゃないか
 ただしアニメのエフェクトを参考にリアルタッチでやってうまくいった試しが無い


「マシン環境は?」

 MacBookでHoudiniを動かしたりするがそこそこ快適

 自宅環境はCore i7 6コアCPU 4920 / メモリ64GB / GeForce GTX 680
 これで全然仕事になる
 このくらいのスペックだと25万円くらい?
 「時間はお金」だと思っているので、良いマシン環境にした方が良い


「Houdiniでエフェクト以外の使用用途は?」

 シェーダーのプロトタイピング
 ライティングやレンダリングも行っている


「海外での就職のコツは?」

 紹介で就職が決まることがすごく多い
 履歴書とデモリールでポンと働けることは少なく、なかなか最短ルートは言えない
 しかし作品はちゃんと見てもらえる
 良い作品だと思ったら必ず面接する


「コンポジットツールは何を使用している?」

 Nukeがプライマリーコンポジットツール
 After Effectsから入ってShakeを使い、Nukeに

 Nukeが一番使い易い
 Houdiniと同じくノードベースで、アセットフローも一目で分かる

 AEはタイムラインベースでモーショングラフィックス制作には非常に良い
 ただしプリコンポが複雑になると他の人のデータを開いても中身がとても分かりにくい


「苦労していることは?」

 全て
 日々苦労している
 うまくいかない時はツライけど、うまくいっている時は楽しい


「海外の大規模パイプラインを国内小規模パイプラインに活かせるか?」

 ファイル管理のルールなどそういったあたりから始めると良いのでは
 チーム内でルールを決めて、活用度を上げていく


「新人採用や教育はどうしているか?」

 やる気のある人、勉強している人を採りたい
 トレンドを追いかけていたり新しい知識を得ている人
 目の前の仕事を淡々とこなしつつ新しいことを試すのに貪欲になって欲しい

 作品がチュートリアルそのままだと見てすぐ分かる
 5~6人で見るので大体「これ見たことある」と知っている人がいる
 見た目の綺麗さよりも新しいことをやっているか、工夫しているかを評価する
 新人はのびしろの方が重要


「今、目指していることは?」

 分からない
 エフェクトじゃない分野だとVRやリアルタイムが面白そう
 とある人の「好きなことをやってお金をもらっている それに報いるには、やり続けることだ」という話
 今やりたいことを続けていきたい


「海外でスクリプトに強い人の割り合いは?」

 スクリプトを書けない人はいないと言い切って良いと思う
 エクスプレッションやスクリプトはパズルのようなもの


「10年後、20年後のCG業界はどうなっている?」

 分からない、進化が速い
 10年前と使っているソフトがそんなに変わらない
 リアルタイムの進化がすごい、5年後リアルタイムやってるかも

 かけてるレンダリング時間が今も昔も変わらないのが面白い
 昔「○年後はきっと5分でレンダリング終わっている」という話が出ていたが変わらない

 10年後にはARが主流になっているのでは?


「リファレンスは他の人と共有しているか?」

 交換したり共有している
 シーンデータなども社内でオープンだったりしている
 環境が最大のアドバンテージだと思っている
 夜中に他のアーティストのデータを見たりした「開けるファイルは全て開く」


「海外で新卒枠みたいなのはあるのか?」

 インターンはある
 学生とフリーランスで戦う土俵は同じ
 学生作品を見て「ヤバイ、頑張らなければ」と思う
 第一線で生き残り続けるのは狭き門、危機感はずっとある


「デモリールはどこまで許されるのか?ブレイクダウンになると公開が難しい」

 アメリカではアーティストがデモリールを作る習慣が一般的なのでグレーゾーンで緩め
 日本は難しい
 (菊地さんのデモリールはYoutubeに公式で上がっているものを使用しているそうです)
 ブレイクダウンを一般公開するのがNGでも、就職活動で限定公開で見せたりする手も


「なぜ名古屋でセミナー?」

 今までは会社に帰属していたので講演の話もあったが機会が無かった
 日本に戻ってきて今はフリーの状態なので、どこでも行こうと思っていたところに声が掛かった


「モチベーションが下がったらどうするか?」

 危機感を持つ
 腐ったら負け
 腐ったこともあるが、腐って良かったことが一度も無い
 腐ってやらなくなって損をするのは自分だけ
 会社に帰属していても究極的にはフリーランス、自分の腕が全て
 うまくいかなかったり認めてもらえないこともあるが、それをバネにする
 どんな時も目の前のことを一歩ずつやって、テーマを決めて突破していくと道は開ける


「スタッフにスキル差があるのだが、スキルの共有はどうしているのか?」

 月一で勉強会をやっていたりする
 個人単位でも教えたり聞いたりする
 「飯の種を他人に教えない」という話を耳にすることがあるが、意味が分からない
 (↑これ非常に同意です)
 出し惜しみせず技術をどんどん伝える
 なるべく人と話す、知らないことは積極的に聞く
 良いシーンデータはサンプルシーンとして取っておく
 ライブラリ化を進めるなどしてみると良いのでは


「Houdini単体でライティングやコンポジットも含め何でも完結できるのか?」

 プラグイン無しで完結できる
 ハリウッド映画でもマントラの使用事例(R&HによるLife of Pieの海とか)もある
 プラグインを使用する場面はほとんど無い、Arnordを使う時くらい
 エフェクト周りもプラグイン無しで完結できる


「Hythonについて」

 HythonはPythonと文法が一緒
 独自スクリプトは文法を一から覚えるのがネックになるのでPythonと同じなのはアドバンテージがある
 Pythonの方がローレベルにアクセスできる
 ストリング(文字列)で複雑な処理を行う時などはHythonを使用する

 普段はHスクリプトを使うことが多い
 Hスクリプトでほぼ完結する

       *       *       *

以上が菊地さんが語られた内容のメモ書きになります。

ゲームにおけるエフェクト制作にも通じるお話も多く、ヒントになったり考えさせられたりする内容ばかりでとても興味深いご講演でした。

書けそうな範囲だけ載せたので、実際には色々なエピソードを交えられており、非常に濃い内容のご講演でテンション上がりました。

特にモチベーションが下がった時にも腐らず「危機感を持つ」というお話、「自分に言い訳をしないでフラットに見る」が印象に残っています。

また「あくまでチーム制作」というのも、グサリと来るものがあります。
時折、チームの意向に沿わない自分の我儘を通そうとしてしまう時があり、後から振り返っても良くなかったと思うことも多いため、このあたりは今特に心に留めたいと思っている部分でもあります。

「リファレンスは重要」というのは、リファレンスを集めるのが半ば趣味(趣味で終わったらダメですが‥)になっている自分にとっても後押しになるお言葉でした。

あとやっぱり海外はマネジメントに人的コストを割いているなあと(役職とキャリアパスが確立している)。。ここは常々、色々と思うところがあります。

菊地さん・岩田さん、貴重な機会をありがとうございました!